プレゼンテーション成功の決め手!分析から準備を始めよう
自分の伝えたいことを一方的に話すのがプレゼンテーションだと思っていませんか?
それではせっかく聞いてくれる相手が置き去りになってしまいます。聴き手は何を聴きたいのか、あなたはなぜプレゼンテーションをするのか、プレゼンテーションをする場所はどこなのか、どんな会場なのか、どんな設備が使用できるのか……。プレゼンテーションを成功させるためには準備の段階で考えるべきことがたくさんあります。
プレゼンテーションの準備は“3つのP”を分析することから始めると、聴き手に伝わるプレゼンテーションになります。
今回は3P分析とは何か、なぜ必要なのかについてお伝えします。しっかり学んでプレゼンテーションの成功を手に入れましょう。
なぜ3P分析が必要なのか
プレゼンテーションの準備段階で3P分析をおこなうことで聴き手から得られるのは、
・期待感
・信頼感
・安心感
です。
準備の取り組み方が、プレゼンテーションの成果を左右します。
プレゼンテーションの準備のプロセス全体に関して詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。
「プレゼンテーションは準備で差が付く!準備のプロセスを理解しよう」
プレゼンテーションの準備のプロセスとして、まず取り組むのが「3P分析」です。
3つのPとは、「PEOPLE(聴き手)」「PURPOSE(目的・目標)」「PLACE(場所・環境)」です。この3つのPを分析することで、あなたは、だれに、いつ、どこで、なにを、なんのために、どのように、なにを使って伝えるのか、プレゼンテーションの見通しを立てます。つまり、プレゼンテーションに成功する戦略を立てることです。戦略なきことに成功はありません。
おそらく、プレゼンテーションをすることが決まった時点では、戦略が重要だとだれもがわかっているはずです。
しかし、「忙しい」「時間がない」「情報がない」などを理由に、わかっていても準備の時間を端折り、この3P分析を怠ってしまうのです。結果、プレゼンテーションに失敗した人は、口を揃えて次のようなコメントをします。
「聴き手のことをもっと知っておくべきだった」
「内容は聴き手のベネフィットを訴求すべきだった」
「事前に会場や使用機器の確認をしておくべきだった」
プレゼンテーションを終えて、3P分析が重要だったことに気がついても後の祭りです。後悔したり、反省したり、言い訳したりせずに済むよう、準備の段階でしっかり3P分析に取り組みましょう。
図の出典:戦略的プレゼンテーションの技術
1つ目のP―「PEOPLE(聴き手)」
聴き手分析では、「聴き手はだれか」をしっかり把握します。つまり、誰に向かってプレゼンテーションをするのか、を分析します。分析から見出すのは、話し手とテーマに対する「聴き手の課題・興味・関心はなにか」です。
プレゼンテーションでは、話し手が意図する行動へ聴き手を導くために聴き手の聞きたいことを伝えます。聴き手の聞きたいことを伝えるには、聴き手を知ることが不可欠です。
もし、あなたが聴き手を分析せずに、プレゼンテーションを始めたとしましょう。
あなたは、会議室に入った途端、聴き手の顔ぶれを見てあっと驚くかもしれません。
あるいは、話し始めてしばらくするとこんなはずではなかったと後悔するかもしれません。
たとえば、準備万端でプレゼンテーション資料を抱えて、会議室のドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは予想を遥かに超えた大人数の聴き手。
「見知らぬ人が大勢いる」「資料の数が足りない」。仕方なく、資料配付を止めて、気を取り直して話し始めます。
会場の雰囲気が重く感じられ、聴き手に目をやると、多くの人が怪訝な顔つきをしています。専門的すぎるのか、難しすぎるのか、話の内容がズレているのか。思案しながら話を進めるが冷や汗が吹き出るばかり。
やっと質疑応答にたどり着き、聴き手の中のひとりが手を挙げてくれたので、意気揚々と質問を受けました。ところが、棘のある質問を浴びせられる。よく見れば、元々、自分に好意的でない人物、日頃から批判や反対する傾向にある人だ。しどろもどろになりながら答えにならない回答をしてしまい、会場の雰囲気は冷ややか、あなたは全身冷や汗。頭の中は「早く帰りたい」思いでいっぱいになり、後のやりとりは覚えていない……。
聴き手分析をしないとこのような目に遭うことでしょう。プレゼンテーションに失敗する原因の大半は、聴き手をよく知らずに、自分の伝えたいことを一方的に話してしまうことです。こんなはずではなかった……と悔やむ前に、聴き手分析にしっかり取り組みましょう。
聴き手を分析する項目は5つ。
・聴き手の数
・聴き手の属性
・聴き手の知識
・聴き手の立場
・聴き手の課題
「こんなに?」「面倒くさい」「時間がない」と思わないでください。プレゼンテーションの成功の鍵は聴き手が握っています。聴き手について熟知することで、聴き手の聞きたいことを伝えることができ、聴き手の懐にズバッと入り込み、聴き手を惹き付けることができるのです。プレゼンテーションで重要なのは、話し手がいかに聴き手の立場に立てるかです。
聴き手分析の結果を見て、聴き手を指名することにも挑戦しましょう。
依頼されたままプレゼンテーションを実施したところ、聴き手には決定権がないため何の成果も得られなかった、という経験はありませんか。「上司に資料を渡しておきます」とか「そんな面白い方法もあるんですね」とか。
プレゼンテーションをするには聴き手に意図する行動があります。その行動を得るには聴き手の理解と合意が必要です。ならば、決定できる人に聴き手となってもらうことです。聴き手分析の結果、決定できる人、決定へ影響力のある人、決定へ賛同してくれる人、など意思決定に貢献する人が聴き手名簿になければ、あなたから指名して出席を促すのです。
「聴き手は決まっている」「聴き手を指名することなんてできない」「無理」と決めつけ諦めないでください。行動することが大切です。仮に指名をしたけれど出席が実現しなくても嘆くことはありません。指名をしたことで主催者や他の聴き手や指名を受けた人の「期待感」が高まっているはずです。
2つ目のP―「PURPOSE(目的・目標)」
目的・目標分析では、「聴き手はなぜ聞くのか」「話し手はなぜ伝えるのか」を明確にします。つまり、聴き手があなたに期待していることを分析します。分析から見出すのは「プレゼンテーションで聴き手に意図する行動はなにか」です。
プレゼンテーションは、仕事の流れの中でおこなわれます。流れのどの段階でプレゼンテーションをするかによって意図する行動は異なります。この意図する行動を間違えると、的外れなプレゼン、何が言いたいのかわからないプレゼンになります。「だから何?」と言われたことがある人は、目的・目標分析に取り組みましょう。
たとえば、顧客に自社製品の仕様を知らしめたいとプレゼンテーションをするとしましょう。あなたには、いっぱい言いたいことがあります。自社の技術力の革新性・独創性・信頼性を述べ、聴き手が聞いてくれれば、きっとこの製品を採用するはずだと思い準備をします。しかし、あなたが力を込めて語れば語るほど、聴き手は無表情・無反応になっていき、プレゼンテーションを終えると、「採用します」ではなく、「検討しておきます」との答えで愕然とします。
なぜこのようなことになってしまうのでしょう?
それは、あなたが話す目的と、聴き手が聴く目的とが、一致していないからです。自社製品の仕様や自社の技術について分かってもらいたい、があなたの話す目的です。
しかし、聴き手は、あなたが提供する製品や技術を採用すれば、自社にどのようなべネフィットがもたらされるかを知りたいのです。これこそが聴き手の聞く目的です。その聴き手の目的を満たすプレゼンテーションができて初めて「採用」という双方の目標達成につながるのです。
だれも貴重な時間を費やして、単なる宣伝文旬を聞きたいとは思っていません。大抵の場合、話し手の目的は聴き手にとっては手段です。プレゼンテーションの準備で、話し手の目的と聴き手の目的が異なることに気づかず、話し手の伝えたいことでシナリオを構築し、資料を作成するとプレゼンテーションの成功の確率が下がっていきます。
就職を希望する学生が聴き手の会社説明会の一例です。
会社の沿革、資本金、売上高、従業員数、拠点、事業内容・・・というプレゼンテーションでは欲しい人材の獲得に失敗しがちです。欲しい人材を獲得するには、専門性を活かせる、やりがいある仕事に就ける、ライフ&ワークが充実する、といった学生の聞きたいことを伝えるプレゼンテーションをすることです。
欲しい人材の獲得が話し手の目標ならば、まずは「どんな人材を採用したいのか」「なぜそれを伝えるのか」を明確にします。就職が目標の聴き手ならば、あなたの会社説明会で「なぜ聞くのか」を明確にします。そして、聴き手があなたから聞きたいことはなにかを見出しましょう。
聴き手と話し手の目的・目標は一致していない、という視点からプレゼンテーションを準備し、一致させるために、聴き手の目的・目標を分析します。「聴き手のベネフィット」を語る、それがプレゼンテーション成功の決め手です。「聴き手のベネフィット」を提供して「話し手のベネフィット」を得る、プレゼンテーションもGIVE&TAKEです。聴き手の立場に立ったGIVEは聴き手から絶大なる信頼感を獲得できます。
3つ目のP―「PLACE(場所・環境)」
場所・環境分析では、「どこでプレゼンテーションをおこなうか」を把握します。つまり、プレゼンテーションで集中力を阻害する要因を分析します。分析から見出すのは「阻害要因の整備」です。
プレゼンテーションの準備で、実際に会場へ赴いて、場所・環境の下見をしたことがあるでしょうか。
「いつもの会議室」「下見なんて要望できない」「わざわざそこまで」などと、プレゼンテーションの成功に場所や環境は大きな影響がない、貴重な準備時間をそんなことに割けないと軽視しがちです。しかし、下見をしなかったことで、本番であなたに多くの災難が降りかかってくる可能性が高くなります。
たとえば、専門分野のシンポジウムでスライド投影をしながらプレゼンテーションするとしましょう。講演依頼書に会場住所が明記されているので、地図で場所を確認し、交通手段と所要時間を調べて準備万端としました。本番当日は大雪。調べた交通手段では予定時刻に会場到着は難しく、急遽別ルートで会場へ。なんとか遅刻はまぬがれたものの、気持ちを落ちつかせる間もなくプレゼンテーションを実施する部屋へ案内されました。拍手で迎えられて部屋の端に設置されていたパソコンの前に立ち、事前提出したデータファイルをクリックしたところ、ファイルが開きません。何度クリックしても開かない。事務局に助けを求めてようやく開き、プレゼンテーションを開始しました。ところが、ページを送ろうとしても2ページ目に進めない。仕方なく、パソコンのキーをたたきながら進行するも照明が暗くて手元も聴き手もよく見えません。目をこらしてやっと見えたのは聴き手の頭頂、聞こえてきたのはタイピング音でした。
場所・環境の準備を軽視すると、こうした事態に見舞われてしまいます。いくら素晴らしい内容のプレゼンテーションを準備したとしても、場所・環境の分析を怠ると些細なことで足もとをすくわれます。
プレゼンテーション成功への最大リスクは場所と環境と言っても過言ではありません。シナリオや資料作成は自分でコントロールできます。本番で頭が真っ白になるリスクはリハーサルを重ねることで回避できます。体調などのコンディションも自分でコントロールできます。しかし、場所と環境は自身でコントロールすることが難しいのです。話し手が場所と環境を選定し、自身で設営することがリスク回避策となりますが、多くの場合は与えられた場所と環境での実施となるため、プレゼンテーションの準備段階で場所・環境分析が重要になります。
聴き手も話し手もプレゼンテーションに集中できる最適な場所と環境を整備するために、準備段階では次を分析しましょう。
■対面でのプレゼンテーションにおける場所・環境分析の項目
・実施する会場:名称、所在地、地図、交通アクセス、所要時間、担当者、連絡先、建物周囲の環境、など
・実施する部屋:名称、フロア図、広さ、収容人数、部屋の仕様(形状、ドアや窓、梁、天井、寸法)、照明(形状、位置、明るさ、調節)、空調、遮光方法、椅子や机の仕様、部屋の周囲環境(トイレ、休憩スペース、移動手段)、など
・室内の設備仕様:スクリーン、モニター、プロジェクター、パソコン、接続方法、電源、マイク、スピーカー、ホワイトボード/黒板、演台、ステージ、など
■オンラインでのプレゼンテーションにおける場所・環境分析の項目
・接続するツール:Zoom、Teams、Skype、など
・接続するルール:ホスト、招待、接続開始時間、画面設定、名前、顔出し、音声、チャット、など
・接続する場所:集合/個別、職場/自宅、単独/複数、周囲の環境、など
・使用するデバイス:通信回線、パソコン(デスクトップ、ノート)/タブレット/スマートフォン、カメラ、マイク、スピーカー/イヤフォン、など
■場所・環境分析の仕上げの項目
・設備のリスク:使用状況によって進行に悪影響が及びます。準備段階では使用する予定の設備はメンテナンスをしておきましょう。動作確認も重要です。モノはあっても使えないことは多々あります。パソコンは万が一に備えてバックアップを用意できれば万全です。
・天候のリスク: 悪天候によって話し手にも聴き手にも悪影響が及びます。準備段階では本番日の天気予報を確認しておきましょう。自身の地域と出席者の地域を確認します。当日は再度天気予報を確認し、不安要素がある場合は決行の判断や実施への配慮ができれば万全です。
「ここまでやるの?」「こんな情報は手に入れられない」「時間がない」と思わないでください。プレゼンテーションが成功するかどうかは、聴き手も話し手も集中できる場所と環境かにかかっています。場所と環境を熟知し、集中力を阻害する要因を排除・整備することで、話し手はリラックスしてプレゼンテーションを進行できます。話し手のリラックスした進行に聴き手は安心感のなかプレゼンテーションに集中することができます。
場所・環境分析の結果を見て、場所や環境を話し手が選定・設営することにも挑戦しましょう。
単に与えられた場所・環境に甘んじるのではなく、話し手と聴き手にとってベストな環境を提供するのも、プレゼンテーション成功に大きく貢献します。場所が変更できないなら室内設備のレイアウトを指定することです。聴き手の視界から集中力を阻害する要因を排除します。部屋の出入口が聴き手の目の前にあって人の出入りがあったら一気に集中力は途切れてしまいます。話し手の立ち位置は、聴き手から見やすく、聴き手が見えやすい位置にします。
話し手がプレゼンテーションの主役です。部屋の端の薄暗いところでは、聴き手に語りかけたところで説得力に欠けてしまいます。聴き手のどの席からも話し手と視覚資料が見えやすくなるような配慮も必要です。
最近ではオンラインでプレゼンテーションをおこなうようになってきました。聴き手の画面に話し手がどのように映るのか、どのくらいの音量で聞こえているのか、どのような環境で聞いているのか、不慣れな上にツールも一様ではないため不安要素がたくさんあります。準備段階で不安要素を洗い出し、情報収集し、ベストな環境をルールとして作り、聴き手に協力をお願いすることもプレゼンテーション成功につながります。
まとめ
プレゼンテーションの準備で3P分析をおこなうことで聴き手から得られるのは、
「期待感」「安心感」「信頼感」です。
3つのP、「PEOPLE(聴き手)」「PURPOSE(目的・目標)」「PLACE(場所・環境)」を分析し、聴き手の立場に立って聴き手の聞きたいことを語り、聴き手の理解と合意と行動を獲得できる確率を高めましょう。
監修
八幡 紕芦史(やはた ひろし)
プレ検創設者
日本におけるプレゼンテーション分野では、先駆者として、その能力向上や啓蒙活動に寄与。これまでに、企業や団体におけるプレゼンテーションの教育や支援、大学におけるプレゼンテーション技術の指導などを手がける。関連書籍や雑誌の執筆も多数、講演活動もおこなう など、プレゼンテーション分野の第一人者。
また、コミュニケーションに関して造詣が深く、一方で、経営コンサルタントとして、様々な企業や団体でビジネス・プロフェッショナルとしての必要なリテラシーを支援、開発、養成、指導の助言、指導、支援もおこなっている。
主な専門分野は、ビジネスに不可欠な戦略的思考と行動、およびコミュニケーション能力。例えばビジネス戦略、営業戦略、戦略的目標管理、商品開発、論理的思考技術、プレゼンテーション技術、ミーティング・マネジメント、チーム・ファシリテイション、多様性のマネジメント、変革のリーダーシップ、グローバル・ビジネス・マネジメントなど。
「戦略的プレゼンテーションの技術」
第1章:プレゼンテーションの戦略
第2章:プレゼンテーションのシナリオ
第3章:インタラクティブ・プレゼンテーション
第4章:プレゼンテーションのデリバリー技術
第5章:ビジュアル化技術
ワークシート集、参考資料
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