ビジュアルを活用して、聞き手に伝わるプレゼンをしよう
プレゼンテーションと言えば、パワーポイントスライドを作成して、スライドを見せながらおこなうもの、とほとんどの人が考えるでしょう。なかには「パワーポイントスライドが命」かのごとく、プレゼンテーションの準備の大半をスライド作成に没頭している人も多く見られます。
実際のプレゼンテーションでもパワーポイントスライドが主役となり、話し手のスピーキングガイドになってしまっています。聴き手がわかりやすくなるようにするためではなく、話し手が話しやすくなるためにパワーポイントスライドを用いているのが現実です。
しかし本来、プレゼンテーションとは、話し手が意図する行動に聴き手を導くことです。より上手に聴き手を導くための道具、それがパワーポイントスライドの役割です。
今回はプレゼンテーションにおける道具のひとつ、ビジュアルについて解説します。
ビジュアルとは何か、使う目的、特性と効用をしっかり把握して、ワンランク上のプレゼンテーションを目指しましょう。
プレゼンのビジュアルとは何か
「ビジュアル(visual)」とは、「視覚に訴えるものごとまたは仕方」を意味します。つまり、“パッと見た時に刺激的であったり、心に残ったりするもの(こと)”をビジュアルと言います。プレゼンテーションにおいて「ビジュアル」とは、聴き手が目から得る情報です。
人は五感で情報を得ます。情報吸収力の割合は、メラビアンの法則をはじめ諸説ありますが、視覚60%、聴覚20%、触覚15%、嗅覚3%、味覚2%です。視覚の割合がもっとも高く、ビジュアルを組み合わせて聴き手の理解を促進し、合意、行動へ導くことが、プレゼンテーション成功のカギになります。
口頭で話し聴覚に訴えながらビジュアル活用で視覚に訴えることで、聴き手の情報吸収力は80%に達します。さらに、触ってもらう、嗅いでもらう、味わってもらう、など五感をフル活用すると効果絶大です。
プレゼンテーションで準備するビジュアルは3つ。
・視覚資料
・周辺言語(話し方:表現、言葉遣い、間、緩急、強弱など)
・非言語(印象:表情、ボディランゲージ、姿勢・態度、服装など)
ここでは「視覚資料」について掘り下げていきます。
プレゼンをビジュアル化する4つの目的
プレゼンテーションにおいて「ビジュアル」とは、聴き手が目から得る情報です。話し手は聴き手に情報を提供するためにビジュアルを活用します。口頭で話すことに加えてビジュアル化する本来の目的は4つです。
図の出典:戦略的プレゼンテーションの技術
1.興味をもたせる
単に「昨年の売上げは右肩上がりです」と口で言うだけでは、聴き手はあなたの言葉を右から左へ流してしまいかねません。
そこで、「では、昨年の売上げ推移を表したグラフをお見せしましょう」と言って資料を見せると、資料に目を向けてあなたの話に興味をもって耳を傾けるでしょう。
ビジュアル化する際は、聴き手の興味関心を惹き付けられるように図解したり、写真や絵を用いたり、デザインしましょう。
2.理解を促進する
「開発が遅れている原因は試作段階で想定できなかった・・・」というような複雑な内容を長々と口頭で説明していると聴き手は睡魔に襲われかねません。
「開発の遅れの原因を工程図からご説明します」と言って資料を見せて説明すると、聴き手はあなたの説明をしっかり理解してくれるでしょう。
ビジュアル化する際は、聴き手がわかりやすいように図解したり、全体を示したり、要約したり、デザインしましょう。
3.時間を節約する
たとえば、制度改定の内容を規程の文章そのまま視覚資料で見せて読み上げていると、聴き手は理解を後回しにしてしまいます。
変更箇所だけを大きく載せた資料を見せたとたんに、聴き手は何が変わるのかをその場で理解してくれるでしょう。
ビジュアル化する際は、聴き手がパッと見てピンとくるように、読むのではなく見るものとしてデザインしましょう。
なお、準備したスライドを順番に全て説明しているプレゼンテーションを見かけることがあります。それでは必要以上に時間が掛かってしまうので注意しましょう。
時間節約がビジュアル化の目的であることを念頭に視覚資料を用いてください。
4.記憶に留める
たとえば、プロジェクト会議後の実施事項とスケジュールを口頭のみで説明していると、後日「あの件の進捗は?」との問いに、「何のこと?」「そんな指示聞いていません」といった反応が返ってきかねません。
実施事項をステップ化やフロー化した資料を見せて説明すると、聴き手は当事者意識をもって記憶してくれるでしょう。
ビジュアル化する際は、聴き手の脳裏に焼き付けて忘れないフレーズにしたり、図解したり、色づけしたり、デザインしましょう。
プレゼンテーションは、話し手が意図する行動に聴き手を導ければ成功です。あなたが伝えたいことをビジュアル化することで、聴き手の興味・理解を促し、記憶に残すことが短時間で実現できます。そして、聴き手は理解を踏まえて、合意し、行動することでしょう。
聴き手が“パッと見た時に刺激的で心に残る”視覚資料を活用しましょう。
ビジュアル・ツールの特性で選ぶ
プレゼンテーションで聴き手の視覚に訴えるツールはなにを活用していますか?
「プレゼンといえばパワーポイントでしょう」と聞こえてきそうです。確かに、パワーポイントが出現してから、あっという間に、プレゼン=パワーポイントが浸透しました。しかし、パワーポイントはプレゼンテーション・ソフトのひとつです。
プレゼンテーションで活用するツールはたくさんあります。準備の段階で取り組んだ3P分析を踏まえて、聴き手の視覚に訴えるビジュアルとして最適なツールを選定しましょう。身近なビジュアル・ツールをその特性で分布図にすると、次の図のようになります。
3P分析について、詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。
『プレゼンテーション成功の決め手!3P分析から準備を始めよう』
どのツールも長所と短所の特性があります。3P分析の結果から、まずは聴き手の人数に対して、ビジュアル化の4つの目的を達成できる最適なツールを選定します。
次に、聴き手の視覚に効果的に訴えるツールを選定します。そして、会場設備、操作性、使い勝手、作成のしやすさなどの観点からツールを選定します。
いつでもどこでも、なんでもかんでもパワーポイントスライドを活用するのはもう止めましょう。ビジュアル・ツールを使うか、ビジュアル・ツールに使われるかにあなたのプレゼンテーションの成否がかかっています。
プレゼンにおけるビジュアル活用のコツ
あなたは、なぜプレゼンテーションにおいてパワーポイントで作成した視覚資料を使うのでしょうか?
ここまで読んだ方であれば、聴き手のためということがお分かりいただけたと思います。
「資料があったほうがプレゼンが進行しやすいから」といった話し手本位で単に伝えたいことをビジュアル化するのではなく、4つの目的「興味をもたせる」「理解を促進する」「時間を節約する」「記憶に留める」を達成するためにビジュアルを活用するのです。
ビジュアル活用のコツは、「シンプル」「インパクト」「コンパクト」の3原則で視覚資料を作成することです。この3原則で作成された視覚資料は、聴き手が“パッと見てピン”とくること間違いなしです。
ビジュアルは聴き手が見るものであって読むものではないのです。文章だらけのスライド、ごちゃごちゃしたスライド、デザインに凝りすぎたスライド、挿し絵やカット図が満載のスライド、このようなスライドではビジュアル化の4つの目的を達成できません。凝りすぎたスライドは聴き手の理解を阻害します。
もし、プレゼンテーションで「見づらくて申し訳ありませんが」と言い訳をしたことがあるならば、この3原則に基づいて視覚資料を作成し、「どうぞご覧ください!」と自信たっぷりにプレゼンテーションをできるようになりましょう。
まとめ
プレゼンテーションにおけるビジュアル活用について、達成すべき4つの目的、ツール特性、作成の3原則を学びました。“パッと見た時に刺激的であったり心に残ったりする”を意識して、聴き手のためにビジュアルを上手に活用しましょう。
監修
八幡 紕芦史(やはた ひろし)
プレ検創設者
日本におけるプレゼンテーション分野では、先駆者として、その能力向上や啓蒙活動に寄与。これまでに、企業や団体におけるプレゼンテーションの教育や支援、大学におけるプレゼンテーション技術の指導などを手がける。関連書籍や雑誌の執筆も多数、講演活動もおこなう など、プレゼンテーション分野の第一人者。
また、コミュニケーションに関して造詣が深く、一方で、経営コンサルタントとして、様々な企業や団体でビジネス・プロフェッショナルとしての必要なリテラシーを支援、開発、養成、指導の助言、指導、支援もおこなっている。
主な専門分野は、ビジネスに不可欠な戦略的思考と行動、およびコミュニケーション能力。例えばビジネス戦略、営業戦略、戦略的目標管理、商品開発、論理的思考技術、プレゼンテーション技術、ミーティング・マネジメント、チーム・ファシリテイション、多様性のマネジメント、変革のリーダーシップ、グローバル・ビジネス・マネジメントなど。
「戦略的プレゼンテーションの技術」
第1章:プレゼンテーションの戦略
第2章:プレゼンテーションのシナリオ
第3章:インタラクティブ・プレゼンテーション
第4章:プレゼンテーションのデリバリー技術
第5章:ビジュアル化技術
ワークシート集、参考資料
八幡紕芦史著 アクセス・ビジネス・コンサルティング株式会社
A5版 232頁 定価2,530円(本体2,300円+税10%)
プレ検公式テキスト
「パーフェクト・プレゼンテーション」
第1章:プレゼンテーションを始めよう
第2章:聴き手分析
第3章:目的と目標分析
第4章:場所と環境分析
第5章:シナリオの構築
第6章:3部構成のシナリオ・ツリー
第7章:デリバリー技術
第8章:ビジュアル・プレゼンテーション
第9章:双方向のプレゼンテーション
八幡紕芦史著 アクセス・ビジネス・コンサルティング株式会社
A5版並製 431頁 定価3,300円(本体3,000円+税10%)