プレゼンテーションのかなめ、ボディーランゲ―ジを極めよう

身振り手振りを交えながら語りかける、そんなプレゼンテーションに聴き手は惹き付けられます。

ボディランゲージといえば、世界的に有名なスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを思い浮かべる人も多いでしょう。スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションは、トップ企業の経営者のプレゼンテーション・スタイルに変化をもたらしました。

プレゼンテーションでボディランゲージを使ってみたくても、パソコン操作やスライド投影が気になってしまい、聴き手すら見ることができず、とてもボディランゲージのことまで意識できない、というのが実状ではないでしょうか。

それでもなんとか挑戦するも、ぎこちない動きで恥ずかしくなってしまい、くじけてしまう人も多いでしょう。

今回は、ボディランゲージの重要性、種類、活用を解説します。ボディランゲージのコツを掴んで、聴き手を惹き付けるプレゼンテーションができるようになりましょう。

プレゼンにおけるボディーランゲージの重要性

プレゼンテーションで準備するビジュアルは、「視覚資料」、「周辺言語(話し方:表現、言葉遣い、間、緩急、強弱など)」、「非言語(印象:表情、ボディランゲージ、姿勢・態度、服装など)」の3つがあります。

その中で今回は、「非言語」について詳しく紹介していきます。

「非言語(non-verbal)」とは、「言語に頼らないもの」を意味します。つまり、“文字や言葉以外で意思伝達をおこなうもの”を非言語と言います。プレゼンテーションにおいて、聴き手は「非言語」から印象を形成します。

プレゼンテーションで話し手から聴き手が受け取る情報を100とした場合、「言語」からは7%、「非言語」から93%(視覚情報55%、聴覚情報38%)の情報を受け取ると言われています。※メラビアンの法則より

聴き手は、あなたが伝える「言語」情報よりも「非言語」情報を多く受け取っているということは、「言語」と「非言語」が一致していない場合、「非言語」情報を信用するということです。「非言語」は真意や本音、潜在的な気持ちを表しているからです。

プレゼンテーションで話し手が登場すると、聴き手はその一挙手一投足に目線を注ぎます。登場した瞬間から話し手の印象を形成していくのです。

印象は、視覚情報から聴覚情報と徐々に形成されていくため、プレゼンテーションで成功するためにはこの非言語を無視するわけにはいきません。

あなたがプレゼンテーションで聴き手を説得したいなら、非言語のなかでも聴き手にインパクトを与えることができる「ボディランゲージ」を活用しましょう。

プレゼンで使うボディランゲージの種類

誰もが、無意識のうちに「非言語」を通じて多くのメッセージを伝えています。「ボディランゲージ(Body language)」とは、身体の動作を通してメッセージを伝える非言語です。ボディランゲージは“心のメッセージ”とも言われ、真意や本音を無意識に表してしまう非言語でもあります。「ジェスチャー(gesture)」は、意図して身振り手振りを用いてメッセージを伝えるボディランゲージのひとつです。

プレゼンテーションにおいてボディランゲージを効果的に活用するために、まずは、ボディランゲージについて理解を深めておきましょう。

ボディランゲージには3種類あります。

1.表象・エンブレム

プレゼンテーションにおいて、伝える内容に明確なメッセージを込めるボディランゲージです。このボディランゲージは3つの役割をもちます。

(1)言葉の代理をする役割

言菓が使えないとき、あるいは、使いたくないときに使います。

大きな会場でのプレゼンテーション。大勢の人が集まり、あなたが登場したにもかかわらず周囲とおしゃべりをしています。「静かにしてください」と大声を出しても一向に静かになりません。そんなときは、聴き手の正面中央に姿勢正しく立ち、聴き手ひとりひとりへ強い目線を送ります。すると、目線が合った人はおしゃべりを止め、聴く態勢をし始めます。これで聴き手の注意喚起はバッチリです。

また、言葉で「ダメ」と言いにくい場合、口の前で人差し指を交差したり、身体の前で腕を交差したり、手のひらを相手に向けたりするボディランゲージで「ダメ」というメッセージを伝えることができます。

(2)メッセージを強調する役割

言葉だけでは伝えきれない感情や効果を伝えるときに使います。

プロジェクト・マネジャーとして初心表明のプレゼンテーション。「必ず成功すると確信しています。皆でやり遂げましょう」と述べますが、メンバーは無反応でシラッとしています。そんなときは、自身の胸の前で握り拳をつくり「確信しています」と述べることで、意志の堅さを伝えることができます。その意志の堅さにメンバーも動機づけられるでしょう。

また、比較を述べたいとき、「A案は」の言葉とともに左手を前へ出し、「B案は」の言葉とともに右手を出します。左手と右手を交互に上下に動かし「A案とB案を比較すると」と述べることで、聴き手は、その続きを聴きたい気持ちに駆られるでしょう。

流行語になった「今でしょ」「お・も・て・な・し」のボディランゲージはインパクトがありましたね。

(3)言葉を否定する役割

伝えている「言語」メッセージと正反対のボディランゲージを無意識に使ってしまうことがあります。これは、使ってはいけないボディランゲージです。

新製品リリースのプレゼンテーション。「本日はようこそお集まりくださいました」と述べますが、手を前に組んで背中を丸めていては「ようこそ」感は伝わりません。逆に「迷惑だった?」と受け取る聴き手がいるかもしれません。そんなときは、聴き手に向かって身体を見せ、両手を広げて「ようこそ」と笑顔と共に述べることで、「来てくださってありがたい」「こんなにも大勢集まって嬉しい」という感謝のメッセージが伝わるでしょう。そして、聴き手は「来て良かった」と思ってくれます。

こうした意図せず無意識で使ってしまっているボディランゲージは要注意です。コミュニケーションにおける“誤解”は無意識のボディランゲージが原因であることが多いのです。日頃のボディランゲージを検証してみましょう。

2.例示的動作・イラストレーション

プレゼンテーションにおいて、身体を使ってイラストを描き視覚的に伝えるボディランゲージです。このボディランゲージで描くイラストは3種類。

(1) 物の形状を表す

丸、三角、四角、ジグザグ、うねり、といった形を指や手を使って描きます。
物の形状を言葉で説明することはとても難しいです。ましてや、その形状を知らない人に説明するのは困難を極めます。書いて説明できないとき、書いたものを見せて説明できないときに、自身の身体を使って形状を描いて聴き手の理解を促進しましょう。言葉と合わせてこのボディランゲージを使うと、聴き手は具体的にイメージすることができます。
首が長いキリン、鼻が長いゾウ、背負うリュック、・・・。ジェスチャー・ゲームを思い出しませんか。手始めに、プレゼンテーションに出てくる物の形状をボディランゲージで伝えてみましょう。

(2)量や大きさを表す

たくさん、すこし、大きい、小さい、高い、低い、広い、狭い、長い、短い、伸びる、縮む、上がる、下がる、・・・といった量や大きさを指や手を使って描きます。

「待ち時間がぐっと短くなりました」と述べるとき、胸の前で左右の手を外側から内側に素早く近づけるボディランゲージを使うと、聴き手はより具体的にイメージをもつことができます。

また、実績の推移をグラフで示しながら左手を右腹から左肩へ斜めに動かして「右肩上がりで好調です」と述べると、聴き手へのアピール度は増します。最も描きやすいボディランゲージなので早速挑戦してみましょう。

(3)数字を表す

1、2、3、・・・などの数を指で描きます。
たとえば、「重要な点は3つあります」と述べるとき、顔の横で指を3本見せるボディランゲージを使うと、聴き手に「3つ」を受け取る箱を頭の中に用意してもらうことができます。あるいは、「3つってなんだろう」とあなたの話に興味津々になります。
さらに、指3本のボディランゲージを見せて、少しだけ間を置いてから「重要な点は3つあります」と述べてみましょう。予想以上に聴き手を惹き付けることができます。ボディランゲージを見せてから述べる、この使い方は効果抜群です。決して、述べてからボディランゲージを見せないようにしましょう。試しにやってみると、あまりの滑稽さに赤面することでしょう。

3.身体的操作・ボディマニピュレーション

プレゼンテーションにおいて、精神の不安定さを表しているボディランゲージです。プレゼンテーションで聴き手の信頼や評価を得たいならば、決して使ってはいけないボディランゲージです。人は言語情報よりも非言語情報を信用するからです。

このボディランゲージは、ほとんどの人が、無意識に使ってしまっています。緊張していたり、落ち着かなかったり、自信がなかったり、困っていたり、隠し事があったり、・・・。こうした精神の不安を抱えていると、身体が勝手に動いてしまいます。聴き手はあなたの非言語に注目していることを忘れないでください。

次のボディランゲージを使っていないか検証してみましょう。あてはまるボディランゲージがひとつでもあれば、自分自身をコントロールすることを準備に加えましょう。

(1)身体の一部を他の一部に接触させて規則的に動かす

頭の後ろをポリポリかく、髪の毛をクルクルいじる、鼻や口元や顎を触る、手をこする、手をもむ、顔や首や腕や脚を掻く、脚を頻繁に組み替える、・・・などの意味のない動作のことです。

1回動かすのは気になりません。本当に痒いときはありますから。でも、“規則的に動かす”と聴き手はあなたの精神の不安定さに気づいてしまします。そして、「大丈夫と言っているけど、本当かな」や「自分でも実行に自信がないんじゃないか」と、その動きの意味を探りはじめます。

プレゼンテーションで精神が不安定になる要素はあらかじめ取り除きましょう。準備段階で、隠し事をしない、だまさない、自信を持つことが何よりも大切です。

(2)物体を本来の目的以外に使う

ボールペンをカチカチとノックする、手持ちメモをクルクル丸める、ページ送りのひもを手首にかけてブラブラする、ポインターを投影画面上でグルグル回すなど、物をもてあそぶ動作のことです。

何とか緊張をほぐしたい一心から出てしまうボディランゲージかもしれません。しかし、このボディランゲージによって、伝える内容よりも、「いつ落とすか」に聴き手の興味関心が集まります。だから、プレゼンテーションは手ぶらでおこなうことがリスク対策なのです。


(3)無意味な動作を継続的におこなう

片手の手のひらを広げて身体の前でクルクルする、握り拳を胸の前で上げ下げする、背伸びをする、など頻繁に何度も繰り返す動作のことです。

緊張から無意識に出てしまっているのでしょう。その証拠に、指摘しても「そんなことはしていない」と返ってきます。しかし、このボディランゲージは、聴き手の集中力を阻害する要因になってしまいます。伝えている内容よりもその動きが気になって仕方がなくなります。

身体的操作・ボディマニピュレーションはどの動作も精神の不安定さを表しているボディランゲージです。そして、自覚症状がなく無意識に使ってしまうボディランゲージです。プレゼンテーションで聴き手の信頼や評価を得たいならば、決して使ってはいけないボディランゲージです。

そこで、プレゼンテーションを録画して検証をしましょう。まずセルフチェックをして自己認識をします。次に、第三者にフィードバックを求めます。検証の観点は聴き手です。聴き手はどんな印象を持つか、伝えたいメッセージが伝わるか、信頼されるか、など。精神の不安定さが現れているボディランゲージに一刻も早く気づくことをお勧めします。

プレゼンでボディランゲージを活用しよう

プレゼンテーションで聴き手の前に立ったとき、あなたは静止画であってはいけません。静止画は1分も見ていると飽きてしまいます。せっかく人が人にプレゼンテーションをするならばボディランゲージを活用して動画で伝えましょう。

ずっとボディランゲージをする必要はありません。注意を喚起したい、興味を沸かせたい、理解を促進したい、合意・決定へ導きたい、ここぞと思うときはボディランゲージを活用して、聴き手にインパクトを与えるのです。

自分の身体をコントロールしながら、意識的・意図的に、ボディランゲージを使ってみましょう。意識的・意図的に使う、これが重要です。計算し尽くされたボディランゲージでプレゼンテーションの成功を獲得しましょう。

最初はぎこちなくなってしまい、恥ずかしいかもしれません。しかし、恥ずかしいからとボディランゲージを使わないと、永遠にプレゼンテーションは静止画です。聴き手が飽きてしまうプレゼンテーションになってしまいます。

プレゼンテーションでは、聴き手はあなたの一挙手一投足に注目します。非言語を観察し、信頼に値するか評価しながらプレゼンテーションを見聞きします。聴き手は、非言語で判断したいと意識的に思っているわけではないかもしれません。外見より中身が重要だと考えている人も多いでしょう。しかし結果的には、非言語が合意・行動の判断へ大きく影響を与えています。なぜなら、非言語は真意や本音を表すからです。

もうひとつ、計算しつくされたボディランゲージを使うために大切なことがあります。国や文化的背景によってボディランゲージから受け取るメッセージが異なるということです。特に指で表すボディランゲージを活用するときには十分な配慮が必要です。聴き手分析の結果を踏まえて、適切かつ効果的なボディランゲージを活用しましょう。

まとめ

ボディランゲージの種類と効用を知り、やり方のコツを掴めば、実践あるのみです。

最初から最後まで、ボディランゲージを駆使したプレゼンテーションができるようになるには時間がかかるかもしれません。どこで使えば効果が高いのかを計算し、やり方のコツを掴み、少しずつでも挑戦してみてください。聴き手はあなたのプレゼンテーションに惹きつけられるはずです。

聴き手の正面に身体を向けて、両手を広げ「本日はようこそお集まりくださいました」と述べてみましょう。

「なぜこの提案でクレームが削減できるか」と述べたところで指を3本縦示し、「3つの観点でご説明します」と述べてみましょう。

ボディランゲージを交えた話に、グググッと聴き手が身を乗り出すこと間違いなしです。

監修

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

プレ検創設者

日本におけるプレゼンテーション分野では、先駆者として、その能力向上や啓蒙活動に寄与。これまでに、企業や団体におけるプレゼンテーションの教育や支援、大学におけるプレゼンテーション技術の指導などを手がける。関連書籍や雑誌の執筆も多数、講演活動もおこなう など、プレゼンテーション分野の第一人者。
また、コミュニケーションに関して造詣が深く、一方で、経営コンサルタントとして、様々な企業や団体でビジネス・プロフェッショナルとしての必要なリテラシーを支援、開発、養成、指導の助言、指導、支援もおこなっている。
主な専門分野は、ビジネスに不可欠な戦略的思考と行動、およびコミュニケーション能力。例えばビジネス戦略、営業戦略、戦略的目標管理、商品開発、論理的思考技術、プレゼンテーション技術、ミーティング・マネジメント、チーム・ファシリテイション、多様性のマネジメント、変革のリーダーシップ、グローバル・ビジネス・マネジメントなど。

戦略的プレゼンテーションの技術」

第1章:プレゼンテーションの戦略
第2章:プレゼンテーションのシナリオ
第3章:インタラクティブ・プレゼンテーション
第4章:プレゼンテーションのデリバリー技術
第5章:ビジュアル化技術
ワークシート集、参考資料

八幡紕芦史著 アクセス・ビジネス・コンサルティング株式会社
A5版 232頁 定価2,530円(本体2,300円+税10%)

プレ検公式テキスト
パーフェクト・プレゼンテーション」

第1章:プレゼンテーションを始めよう
第2章:聴き手分析
第3章:目的と目標分析
第4章:場所と環境分析
第5章:シナリオの構築
第6章:3部構成のシナリオ・ツリー
第7章:デリバリー技術
第8章:ビジュアル・プレゼンテーション
第9章:双方向のプレゼンテーション

八幡紕芦史著 アクセス・ビジネス・コンサルティング株式会社
A5版並製 431頁  定価3,300円(本体3,000円+税10%)