プレゼンテーションの戦略立案に必要な5つの資源

誰もがプレゼンテーションで成功したいと思い準備に取りかかります。

あなたは聴き手を惹き付けて、大きな拍手で終えるシーンを想像しながら、パソコンのプレゼンテーション・ソフトを立ち上げ、1枚目のタイトルに入力をし始めるでしょうか。

それとも、聴き手を前に緊張してガチガチになることに心配をしながら、「どうしよう」「何から準備しよう」と焦り始めるでしょうか。

残念ながら、このような準備の取りかかり方では、プレゼンテーションに失敗する確率が非常に高くなります。
なぜなら、プレゼンテーションの成功には戦略が不可欠だからです。

今回は、プレゼンテーションの成功に欠かせない戦略立案において持つべき視点についてお伝えします。

5つのプレゼンテーション資源

プレゼンテーションの成功とは、意図した目的・目標を達成することですから、達成に向けた戦略がなければなりません。プレゼンテーションの成功はこの戦略次第ともいえるでしょう。

プレゼンテーションに必要な資源は人的資源、物的資源、金銭資源、情報資源、時間資源の5つです。プレゼンテーションの準備に取りかるとき、この5つのプレゼンテーション資源の獲得を目指しましょう。そうすれば、あなたはプレゼンテーションの成功へ一歩近づくことができます。

では、5つの資源はそれぞれどのようなものか紹介します。

図の出典:戦略的プレゼンテーションの技術

1.人的資源

プレゼンテーションにおける人的資源とは、聴き手、話し手、主催者、司会者(進行役)、サポーター、事務局など。

2.物的資源

プレゼンテーション・ツール、プレゼンテーション資料、パソコン、タブレット、プロジェクター、スクリーン、モニター、プレゼンテーション・パネル、板書設備、スライド送り、ケーブル類、プレゼンテーション・ルーム、照明、音響、空調、その他設備・備品など。

3.金銭資源

プレゼンテーションにかける費用、あるいは、かかる費用として、人件費、資料制作費、会場費、設備費、など。

4.情報資源

プレゼンテーションの聴き手、目的・目標、場所・環境、日時、そして、プレゼンテーション内容を組み立てる事実、事象、事例、理論、データ、数字、写真、専門家の意見、など。

5.時間資源

プレゼンテーションをおこなう時間、準備にかかる時間、移動時間、設営時間、など。

続いては、5つの資源のなかで重要な人的資源、物的資源について詳しく見ていきましょう。

プレゼンに重要な人的資源(リソース)

まずは、人的資源についてです。

たとえば、社内で新規事業を立ち上げることになったとしましょう。あなたは、そのプロジェクト・リーダーです。新規事業を社内で認知させ、決定させ、予算措置を講じ、立ち上げ準備着手、といった流れで取り組むでしょうか。

まずは、社内に認知させるためのプレゼンテーションをします。このプレゼンテーションを資源の観点から戦略立案してみましょう。

人的資源で最も重要なのが聴き手です。このプレゼンテーションを聴くべき人は誰か、その聴き手を確保できるかどうかがプレゼンテーションの成功の鍵です

単なる興味本位ではなく、単なる関係者ではなく、その他大勢でもなく、この新規事業を推進するために欠くことのできない重要人物と影響力をもつ人物が聴き手でなければなりません。つまり、あなたのプレゼンテーションにおけるキーパーソンをあなた自身で選ぶことが人的資源での戦略なのです。この人には聴き手になって欲しい、と考えたら、ぜひ、出席依頼をしましょう。

決して、聴き手を主催者任せにしてはいけません。失敗するプレゼンテーションの多くは、誰が聴き手か知らなかったり、関係ない人も聴き手だったり、なぜ聴き手なのか分からない聴き手がいたり、といった状況にみまわれています。

次に、あなたのプレゼンテーションに協力してくれるサポーターを選び出しましょう。もちろん、あなた独りでもプレゼンテーションを組み立てて実施することはできます。ただ、よりクオリティの高いプレゼンテーションで成功の確率を高めたいならば、サポーターは必要です。

サポーターに、情報収集、情報分析、準備進行管理、必要な設備・備品の調達、関係者への連絡、資料準備、当日の設営、といった事務的な協力をお願いできれば、あなたは“戦略立案”や“シナリオ構成”に集中できます。

しかし、プレゼンテーションの成功の確率を高める上でサポーターに担ってもらいたいもっとも重要な役割は、プレゼンテーションのシナリオ構成の議論に参加してもらうことです。プレゼンテーションに失敗する原因に、視点がズレている、独善的な論理展開、情報の抜け落ちや漏れ、などが挙げられます。

これらを回避するためには、多面的な視点で議論や検証ができるサポーターが必要になるのです。リハーサル時にサポーターに聴き手目線でのフィードバック(指摘)をしてもらうと、あなたのプレゼンテーションは準備万端になります。

もうひとつの忘れてはならない人的資源、それは、話し手となるあなた自身です。聴き手は、他の誰でもないあなたから聞きたいことがあるはずです。あなたがプレゼンテーションの話し手である必然性を意識して、準備も当日もしっかり取り組みましょう。

プレゼンテーション・ツールを活用しよう

次に、物的資源に含まれるプレゼンテーション・ツールについて見ていきます。
プレゼンテーションにはパワーポイント・スライドが欠かせないと思い込んでいる人が大半です。

確かに、パワーポイント・スライドは効果的な視覚資料です。

しかし、視覚資料はプレゼンテーションの成功に貢献するツールであって、成功に導くのは話し手であるあなたです

つまり、あなたは、このツールを活用するのであって、ツールに使われるのではありません。プレゼンテーションの成功の確率を高めるためには、多種多様なプレゼンテーション・ツールから最適なツールを選定する戦略立案が必要なのです。

何でもかんでもパワーポイント・スライド、身の回りにあるツール、与えられたツールでプレゼンテーションをしていては成功の確率が下がってしまいます。どのツールを選択すれば効果的かは、プレゼンテーションを実施する場所・環境の情報、ツールの活用目的、ツール活用スキル、などから判断します。

パワーポイント・スライドは、投影環境によって効果性が異なります。パソコン、プロジェクタ一、スクリーンが備え付けられた部屋で、投影データもパソコンに保存されている環境下では、「こちらをご覧ください」と安心して活用できるでしょう。

しかし、これら機器類を全て設置・接続する環境下では、リスク回避のために準備段階で大汗をかき、「こちらを」と手を指したら映っていない、動画がフリーズする、足下のケーブルにつまづく、などなどトラブル多発で、話し手も聴き手もプレゼンテーションに集中できません。

また、オンラインでの画面共有の環境下では、通信状態や使用デバイスなど聴き手の状況が掴みきれないことからリスク回避対策がとれず、効果的に活用するには高度なプレゼンテーション力が必要になります。画面共有の際に「共有できていますか?」は、対面の際に「見えていますか?」と言うのと同じです。何とも間の抜けたプレゼンテーションの始まりです。ならばと、スライドを紙に出力して配付したり、データを事前送信したりすると、聴き手は手元資料にアイコンタクトをして、話し手であるあなたを見ていない、聞いていない事態にみまわれます。

効果的に活用するとは、興味を沸かせる、理解を促進する、記憶に留めることを実現することです。場所・環境分析をしたうえで、効果的なツールと判断できればパワーポイント・スライドは頼りがいのあるツールになります。

最近プレゼンでよく活用される動画は、聴き手を惹き付けるのに効果的なツールです。人は動くものに興味をもつ習性があるので、飽きさせず集中してもらうことができます。しかし、制作に他の資源がたくさん必要になります。動画を活用する場合はコスト・パフォーマンスの観点も重要です。うかつに流用すると知財に抵触しかねません。また、全て動画を放映するならば話し手は不要になります。よって、プレゼンテーションの一部に動画を活用すると効果的といえます。

他に、プレゼンテーション・ツールとして、PDFデータ、Webサイト、ホワイトボード、フリップ・チャート、パネル、ポスターなど、多種多様なツールがあります。これらツールから、聴き手の興味を沸かせる、理解を促進する、記憶に留めることを実現できるツールを選定しましょう。そのためには、まず場所・環境分析が必要です。そして、ツール特性を活かせる資料を作成しましょう。

まとめ

プレゼンテーションに成功するためには、戦略立案がベースとなります。
それに基づいてシナリオ構築、どのようにデリバリー(伝達)するか、と準備を進めていきます。

プレゼンテーション・ソフトを立ち上げるのはそれから。
自分の思考力をフル活用してこそ、プレゼンテーションの達人になれるのです。

戦略無きところに成功は無し、つまり、プレゼンテーションの成功には戦略が不可欠です。どんなことも勝因は戦略にありと言われます。

ならば、プレゼンテーションの準備は、5つの資源から戦略立案に取り組みましょう。そして、次に、戦術として伝える内容のシナリオ構築やデリバリー(伝達方法)の準備へと取り組みます。プレゼンテーション・ソフトを立ち上げて準備を始めたい気持ちを抑え、本番の緊張を心配することをしばし忘れて、聴き手を惹き付けて大きな拍手で終えることへ期待を膨らませてください。

情報資源の集め方を知りたい方はこちらの記事をご確認ください。

監修

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

プレ検創設者

日本におけるプレゼンテーション分野では、先駆者として、その能力向上や啓蒙活動に寄与。これまでに、企業や団体におけるプレゼンテーションの教育や支援、大学におけるプレゼンテーション技術の指導などを手がける。関連書籍や雑誌の執筆も多数、講演活動もおこなう など、プレゼンテーション分野の第一人者。
また、コミュニケーションに関して造詣が深く、一方で、経営コンサルタントとして、様々な企業や団体でビジネス・プロフェッショナルとしての必要なリテラシーを支援、開発、養成、指導の助言、指導、支援もおこなっている。
主な専門分野は、ビジネスに不可欠な戦略的思考と行動、およびコミュニケーション能力。例えばビジネス戦略、営業戦略、戦略的目標管理、商品開発、論理的思考技術、プレゼンテーション技術、ミーティング・マネジメント、チーム・ファシリテイション、多様性のマネジメント、変革のリーダーシップ、グローバル・ビジネス・マネジメントなど。

戦略的プレゼンテーションの技術」

第1章:プレゼンテーションの戦略
第2章:プレゼンテーションのシナリオ
第3章:インタラクティブ・プレゼンテーション
第4章:プレゼンテーションのデリバリー技術
第5章:ビジュアル化技術
ワークシート集、参考資料

八幡紕芦史著 アクセス・ビジネス・コンサルティング株式会社
A5版 232頁 定価2,530円(本体2,300円+税10%)